🐻おかあちゃん旅に出る〜北海道洞爺湖日記 vol.6 ラムヤート周辺には、他にもいくつか個人店が集まっている。 ラムヤートの裏手に2年前に出来たばかりのanan coffeeにまずは寄ってみる。 コーヒー屋の店主であるアナンくんのお母さん、音楽家である @olaibiolaibi あいさんは知り合いで、息子のアナンくんが数年前、17歳でこの地でコーヒー屋を始めたことは知っていた。 あいさんの生き方や暮らしに、以前から関心を寄せていたわたしは、母になったいま、彼女の子育て話にも興味があり、17歳で店を構えた彼に一度会ってみたいと思っていた。 裏路地にある赤とグレーの小さな古屋にアナンくんはいた。写真で見ていた幼かった少年は、ロングヘアーを綺麗に束ねた、美しい青年になっていた。 すでに10名ほど、お客さんが並んでいる。 お客さんの声がけに真摯な対応をする姿を見て、なんと気配りのできる青年なのか！と、関心した。 コロナ禍はテイクアウトのみにしているそうで、店内でコーヒーを飲むことができなかったけれど 自ら焙煎したエチオピア産の豆で淹れてくれたコーヒーは、こっくりとした甘味があってとても美味しかった。焙煎したばかりの豆の残りニ袋のうち、一袋を購入させてもらった。コーヒーが好きな夫の土産にする。 アナンくんに自己紹介をすると、わたしの名前は覚えていてくれたそうで嬉しくなる。「アナンくんは、いくつになるの。」と聞けば 「もうすぐ二十歳になります。コーヒーは九歳からはじめたんで、もう11年ですねー。」 9歳、、小学3年生か、、。 う〜ん、素晴らしい。その歳で自分の好きを見つけ、今の今まで続けてきたことはもちろんのこと、彼なりに右往曲折あったのかもしれないが、自分を信じる力がすば抜けてあるんだろうな。 また、瞬時に思い浮かべたのは、母である、あいさんのこと。母もまた、子を信じる力が深くないと、きっと若くして、ここまで形にすることは難しいだろう。 親の意見は時にこどもの人生の足枷になったり、背中を押すきっかけにもなるから、自分だったら、子が志望したことには 「とりあえず、自分の力で頑張ってみたら。」と、声をかけてやりたいと思っている。 アナンくんから淹れたてのコーヒーを受け取って、わたしはまた湖を前に、今度はこどもたちのことを考えていた。 親になると、何かとこどものことが心配になる。自分以外に大切な存在が出来て、自分の経験や思想と異なる行動をした時に、なんと言ってあげられるだろう。 ちょっと自分の話になるが わたしは若い頃、親に幾度も反発をして、やりたいを貫き通し、両親をえらく心配させた。 わたしは集団行動が大の苦手で、特に、幼稚園から中学まで、学校というものが嫌いだった。いじめられっ子だったことが影響したのは大きい。 幼稚園はしばらくこどもたちから離れ、倉庫で授業を受けていたときもあった。きっと両親は気がかりだったろうと思う。 絵を仕事にしたいと伝えたときも、ひとり旅をしたときも、自分の蓄えでメキシコに留学したときも、両親は心配したし、反対もした。どれも彼らにとっては未知の世界だから。 でも振り返ってみれば、自分を信じられる力は、両親が愛情を与え、いつも側にいて、わたしの未来を不安なく照らしてくれていたからだと思う。帰る場所がある、それだけで安心する。 仲睦まじく過ごしていたわたしの両親は、わたしに産まれてこの方、一度も喧嘩をしている姿を見せたことがなかった。 いま、幼いこどもたちを育て、決して100点とは言えぬ、むしろマイナス育児であったであろう、わたしの子育ては、夫婦自営業同士が故、こどもたちには夫婦喧嘩もたくさん見せてきた。結局、母のように、父のように、を目指したとしても難しい。わたしは同じ人間ではないのだから。 わたしのこどももまた、わたしとは違う。 今年は転換期なのか、ようやく落ち着きを取り戻した我が家。本当に色々あった。全部話せば長くなるが、新しく動き出すために、北海道の地を訪れた意味もある。 この数年のやりとりがこどもたちにどう影響してくるかは全くわからない。 こどもたちには、夫婦喧嘩に巻き込んでしまったことを、本当にすまなかったと思っている。 そのことを償うように、「だいすきだよ。」と声をかけることは、欠かしていない。思い出さなくとも、おまじないのようにいつか、こどもたちの内側を温めてくれたらな、と思う。 何者でもなく、いまのあなたが素晴らしい。いつだって、そう伝えてあげたいと思っている。 こどもの将来など今から分かるはずもないが、過去を振り返っても仕方がないし、今から自分のできることを尽くすだけだ。 アナンくんが清々しく働く姿を見て、親は心配などせずに、こどもを信じてやればいいんだな。 未来はきっと明るい。どんな時代を迎えても、親が未来を信じずに、子が信じることができるだろうか たくましく育つ若者がここにいるじゃないかと、子育て中のわたしは、背中を押してもらったような気持ちだ。 わたしは自分のこどもたちの未来に想いを馳せながら、アナンくんが淹れてくれたコーヒーを時間をかけて、味わった。 つづく

🐻おかあちゃん旅に出る〜北海道洞爺湖日記 vol.5 天然酵母パン屋さん「ラムヤート」を軸にいろんなお店が点在しているというので、ひとまず道路を挟んで隣にあるセレクトショップ"TOITA"へ向かった。道内だけでなく、日本各地から取り寄せた身体や環境に優しい調味料や、日用品が並ぶお店。 @toita.toya わたしの好きな早川ユミさんの本や作品も並んでいた。前から気になっていた「野生のおくりもの」を購入。 @yumi_hayakawa24 他にも焼き菓子や、調味料。店主のともこさんにオススメいただいたものを買わせてもらった。 その日は土曜日で、店先に「たまたま舎」という名で、北海道にまつわる話を集めた古本の小さなPOPUPが開かれていた。 @_makyun 何気なく覗き込んでみると「北海道 母の百年」というタイトルの本を見つけ、店主に話を伺うと 「もう手に入らない貴重な本たちです、昔の人の声が記してあります」 ならば、と迷わず購入した。毎度感じていたことだが、北海道の魅力は雄大な土地のもつパワーだけでなく、そこで暮らす人々もまた、気持ちの良い人が多い。 今から50年前の北海道で暮らした母たちは何を感じていたのだろう。 旅の土産に、その土地の言葉を持ち帰り、日常に役立てようと思う。 本を購入したあと、「たまたま舎」の看板を見返すと「北国写真館」と書かれていた。 "写真館？" 聞けば、本を販売している女性は、カメラマンとライターでもあるそうで、今日はPOPUPの流れで記念写真も撮ってくれるという。 ひとりで来ているし、この美しい洞爺湖を前にせっかくなら記念に一枚撮ってもらおうかな。と、すぐに依頼した。 過去の作品から腕前のある方だと確信し、値段を聞けば目が飛び出るほどリーズナブルだった。「いいんですか、その値段で？」 「今日は特別なので、いいんです。お気に入りの場所で撮りますよ」 彼女の名前は、森髙さん。通称、たまたま舎のたまちゃん。 聞けば、長崎から北海道に魅了され、帯広に移住したいう。近々、洞爺湖周辺があまりも心地よいのでこちらに引っ越しを考えているとのこと。 帯広には仲の良い友人の幸太が @elephant_in_the_room_obihiro という店をやってて、、 と話せば、すぐに理解したようで、幸太のことはもちろん知っているという。 20代前半、初めて北海道をヒッチハイクで旅したときに、最終地点の石狩、札幌で仲良くなった幸太。 あれから10年以上の時を経て、また点と点がつながるのだから、人とのご縁は途切れることがないなと思う。 たまちゃんに洞爺湖の畔にある柳を前に撮影しましょうと提案を受け、シャッターを何度も切ってもらった。 明日撮影した写真を、セレクトしてほしいから、ラムヤートの夕食前に寄ってほしいとのこと。 初めて会うのに、翌日もまた会えるなんて、嬉しい。 わたしも、一枚撮らせてくれと、頼んで、マスクを外してもらった。 たまちゃんの笑顔は、澄み切っていて、この仕事をとても楽しんでいるように見えた。 どんな写真になるか、楽しみである。 つづく

🐻おかあちゃん旅に出る〜北海道洞爺湖日記vol 5 洞爺町に着いて一泊。翌日は快晴。 見事なまでに、湖は美しく澄み渡っていた。 ホテルの朝食で飲んだ、その場でミキサーにかけた出来立てのトマトジュースの旨さにうなりつつ、部屋に戻り連載の原稿を書く。 ある程度進んだので、天気の良いうちに散歩に出かける。 ホテルから歩いて15分の場所に、野菜の販売所「水の駅」がある。洞爺湖を前にした素晴らしいロケーション。 道路を挟んだ向かいに「ラムヤート」という天然酵母パンの店がある。 @ramuya_to 趣のある古い民家を改修したそのパン屋さんは、友人の料理家たかはしよしこさん @yoyoyoyoshikoyoyoyo が以前紹介をしていて、以前から尋ねてみたかったところ。 あえてどんな場所かしっかり調べずに来た。この時代、ネットでなんでも知ることができてしまう。感動がうすまるのはもったいない。現場でお店の魅力を初めて発見したい。 店内に入ると、眼鏡をかけた背の高い男性が快活な声で「こんにちは。気になるパンがありましたら、声をかけてください。」と、話かけてくれた。 正面におかっぱヘアのキャラクターが焼印された三角モチーフの美味しそうなパンが目にはいった"エジプト塩パン"。よしこさんのオリジナル調味料を練り込んだパン。見た目から、もっちり美味しそう。パンがずらっと綺麗に並び、こちらを向いている。 「よしこさんと景さんと、お付き合いがあって、、」とわたしが話をすると、盛り上がり お店の店主は「よっちゃんのお友達なら、夕飯食べに来ますか。」と、入店10分後、なんと夕食に招待してくれた👀 まだ互いの名前も伝える前に、そんな風に声をかけてもらえるなんて、ありがたい。その場で「いいんですか！お邪魔させていただきます。」と応えた。ひとり旅の醍醐味、初めて出会う人とのご縁。この感じ、久しぶりだ。 こんな時期だ。人によっては煙たがるであろう、東京からきたわたしを、なんの隔たりもなくスッと誘ってくださり、わたしはとても嬉しくなった。よしこさん、景さんのご縁に感謝しかない。 ちょっと話は逸れるが、少し前、ある知人が営むお店まで長時間かけて車を走らせ伺った際、お店で働くスタッフにそっけなくあしらわれ、とてもショックな気持ちになった。 せっかく来たのでこだわりの商品は買って帰ったけれど、もう二度とその店には行かないし、購入したいとも思わなかった。とにかく残念でならなかった。 どんなに美味しいレストランや、人気のある雑貨店も、結局は、店主の人柄がその店を作るのだと思う。わたしは自分が好きだと思う店や、心の通った物にお金を投じたい。 ラムヤートで買ったふかふかのパンを手に、洞爺湖へ。持参した組み立て式のイスを出し、湖を眺めながら食べたパンは本当に美味しく、お腹と心を温めてくれた。 #ラムヤート #洞爺湖日記 #北海道旅行 #ひとり旅 #エジプト塩 #たかはしよしこ